2025年10月03日
岩谷産業の水素燃料電池で動く次世代の船・まほろば と、同社が目指す脱炭素社会への実現
最近世界で開発が進んでいる次世代エネルギー。環境保全の観点からも化石燃料に変わる新しい燃料で動くモビリティが次々と生み出されています。 2025年4月から10月の間に大阪万博会場への交通手段として運行したことで話題の「まほろば」は水素で動く「水素燃料電池船」です。 水素燃料電池船とはどんなモビリティなのか、開発企業である岩谷産業株式会社(以下岩谷産業)が力を入れている水素エネルギー事業と合わせてご紹介します。
読者の関心度
★★★★☆
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片倉 好敬
Katakura Yoshitaka
アベントゥーライフ株式会社
代表取締役 兼 CEO
水素燃料電池船とはどんなモビリティ?
水素燃料電池とは、水素と酸素の化学反応で電力を生み出す発電装置のことです。発電に必要なエネルギーは水のみなので、温暖化や大気汚染の原因である二酸化炭素や窒素酸化物を排出しません。究極のクリーンエネルギーとして今普及の期待が高まっています。
水素で発電した電気とプラグイン電力のハイブリット動力で運航する、まさに次世代の船。騒音や振動が少なく、燃料の匂いがしないのも特徴です。
現在世界中で開発が進められており、日本でも北九州市小倉港から白島沖で、上記を搭載した洋上風車作業船「HANARIA(ハナリア)」運航の実証実験に成功するなど着実に成果を上げてきました。
「まほろば」は、
と、4者共同で開発した船です。大阪市街地の「ユニバーサルシティポート」から大阪万博会場の夢州を繋ぐ海上の足の役目を果たしました。
夢州へのアクセスにはシャトルバス、車などさまざまな交通手段がありましたが、混雑や渋滞が回避できて楽しく次世代モビリティを体験できると来場者からも高評価。その存在を万博で知った方も多いのではないでしょうか?
まほろばとはどんな船か、モビリティの特徴を解説!
岩谷産業が開発した「まほろば」という船の名前は、古事記で倭建命(やまとたけるのみこと)が故郷を偲んで詠んだ和歌の中で使われた言葉から取っています。「素晴らしく、住みやすい場所」という意味があり、世界の未来が自然との共生により本当の「まほろば」になってほしいという願いを込めて命名されました。
ロゴマークのイメージカラーは水素や海の色を連想させる青。船体はスタイリッシュなブルーグレーを採用しています。
世界的なデザイナー・山本卓身氏による近未来的な水素燃料電池船のデザインも見所のひとつです。
前方の全面はスタイリッシュなガラス張り。屋内からも海の景色が楽しめる工夫が施されています。煌びやかで開放感あるデザインがとても素敵ですよね。船の至る所に「水」をイメージした美しい曲線デザインが施されていますよ。
操舵室もガラス張り!航海士の目線で景色を堪能することができます。
まほろば 開発の岩谷産業が取り組む水素エネルギー事業
岩谷産業は、総合エネルギー、産業ガス・機械、マテリアルの3つの分野で事業展開する1930年創業の歴史ある企業です。
1953年に日本で初めて家庭用プロパンの全国販売を開始したことで有名で、LPガスブランド「MaruiGas」は全国約340万世帯で利用されており、国内No.1を誇ります。
水素の取り扱いを開始したのは1941年。80年以上にわたり水素エネルギー社会の実現に向けて研究を続けています。2006年に大阪府堺市で、2009年に千葉県市原市、2013年に山口県周南市で液化水素製造プラントの稼働をいち早く開始しました。
現在の液体水素国内シェア100%、圧縮水素+液化水素国内シェアは約70%です。国内にある岩谷産業の水素ステーションは51箇所で、今後少しずつ増えることが見込まれています。(2025年4月地点)
いまは狭い範囲で産業用としての液化水素供給を行っていますが、今後は海外のネットワークを駆使して安価な低酸素水素を量産し、さまざまな用途で水素エネルギーを導入してもらうことを目指しています。
「まほろば」は水素プロジェクトの一環として開発された船です。大阪万博終了後にこの水素燃料電池がどのように活用されていくのか、今後の動きに注目してみると面白いかもしれません。
2050年、脱炭素社会の主役は水素エネルギーになる?
2022年5月に発表された「IPCC第6次評価報告書」では、「気候変動が人間活動の影響であることは明白である」と結論づけられました。
私たち自身が日々の生活で強く感じている通り、地球環境の変化は猛スピードで進行しています。平均気温の上昇を抑えるためには温室効果ガスの8割以上を占めるエネルギー分野の取り組みが特に重要視されており、水素をはじめとする再生可能エネルギーの活用に注目が集まっています。
水素エネルギーの普及を阻害している現状の課題として、水素ステーション不足や高額な製造費用・輸送コスト、技術不足による扱いの難しさなどが挙げられています。
今回ご紹介した岩谷産業の水素燃料電池船というカテゴリは、上記の課題をクリアしつつ環境に配慮するモビリティの、進化の方向性を示すものであると言えるでしょう。
2050年、脱炭素社会の主役は水素エネルギーになるとも言われています。今後どんなモビリティが誕生するのか、水素がどのように活用されていくのか……25年後の未来が今から楽しみですね。
田宮 有莉