宮沢賢治とEバイクでめぐるイーハトーブ聖地巡礼――花巻・盛岡・雫石を走る文学ツーリングガイド

宮沢賢治の物語や詩に心を動かされたことのある人なら、一度は「イーハトーブ」と呼ばれる理想郷を、自分の足で歩いてみたいと思ったことがあるかもしれません。岩手県花巻市や盛岡市、その西に広がる雫石町には、賢治が暮らし、教え、書き続けた風景が今も静かに残っています。そこをEバイク(電動アシスト自転車)などのモビリティ自転車でゆっくり走ると、作品の言葉や登場人物たちが、不思議と現在の旅の感覚と重なってきます。本記事では、詩集『春と修羅』にも触れながら、花巻・盛岡・雫石をめぐる聖地巡礼ツーリングと、立ち寄りたい温泉やグルメを紹介します。

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記事の目次

  • Eバイク旅の前に知っておきたい宮沢賢治という人
  • 春と修羅がひらくイーハトーブの空とEバイクの視点
  • 花巻市で宮沢賢治を感じるEバイク半日ツーリング
  • 宮沢賢治聖地巡礼:イーハトーブの田園風景を走る花巻郊外Eバイクロングライド
  • 盛岡シティライドで出会う宮沢賢治と近代文学
  • イーハトーブの牧場・雫石と小岩井農場をEバイクで楽しむ
  • 宮沢賢治ゆかりの温泉とグルメでイーハトーブEバイク旅を仕上げる
  • Eバイク・パーソナルモビリティで巡るイーハトーブ旅の準備と注意点

Eバイク旅の前に知っておきたい宮沢賢治という人

宮沢賢治は、1896年に岩手県花巻市に生まれた詩人・童話作家です。同時に、農学校の教師であり、アマチュアの地質学者であり、宗教的求道者でもありました。花巻農学校で若者たちに農業科学を教えながら、農民の生活向上をめざして自らも畑に立ち続けた姿からは、「教室と現場を何度も往復する実践者」としての賢治像が見えてきます。

代表作として知られる『銀河鉄道の夜』や『セロ弾きのゴーシュ』、『どんぐりと山猫』などの童話は、東北の素朴な風景のなかで宇宙や音楽、動物たちがいきいきと動き出す世界を描きました。また、詩集『春と修羅』では、気象観測や地質調査に根ざした視線と、激しく揺れ動く心情がひとつの言葉の流れに溶け込んでいます。科学・信仰・農業・文学が重なり合った多層的な人生こそが、賢治という人物の大きな魅力です。

この複雑な内面と、岩手の土地への深い愛着が結晶したものが、架空の理想郷「イーハトーブ」です。イーハトーブは、単に美しい自然がある場所ではなく、苦しみや矛盾を抱えながらも、人と自然が助け合おうとする営みそのものを指しているようにも感じられます。こうした背景を知ってからEバイク旅に出ると、道端の小さな畑も、鉄道の線路も、より豊かな意味を帯びて見えてくるでしょう。
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宮沢賢治:詩人、童話作家。 1918年盛岡高等農林学校卒業後、家業を継ぎ、東北の自然や暮らしを題材にした詩や童話を書き、農業指導員として民生の向上に尽力した。1924年詩集『春と修羅』、童話集『注文の多い料理店』を私費で出版。|出典: u001fPortraits of Modern Japanese Historical Figures

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宮沢賢治の生まれ故郷花巻。|出典:Miyazawa Kenji: The Poet as Asura?

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1924年に宮沢賢治の『注文の多い料理店』が出版された「光原社」の中庭。|出典:PAPERSKY

春と修羅がひらくイーハトーブの空とEバイクの視点

宮沢賢治の世界観をもう一歩深く理解する鍵となるのが、唯一の生前詩集『春と修羅』です。この詩集は、1920年代の岩手を舞台に、気象観測や地質調査、農民との出会いなど、日々の出来事が即興的な自由詩として記録された作品群で構成されています。そこでは、気圧配置や雲の名前、風向といった科学的な情報と、失恋、病気、信仰上の葛藤といった個人的感情が、ほとんど同じ強度で並べられています。

タイトルにある「修羅」とは、仏教に登場する闘争的な存在を意味します。賢治は自分自身を「修羅」と呼ぶことで、農民の貧しさや自然災害の前に無力さを感じ、それでも何かを変えたいと願う「矛盾だらけの旅人」としての自己像を受け入れようとしたのかもしれません。この視点に立つと、イーハトーブは決して完璧な楽園ではなく、修羅として生きる人びとの努力によって辛うじて保たれている世界として立ち上がってきます。

『春と修羅』には、雲の形や星空、風の音など、モビリティで走るときにふと気になる対象が数多く描かれています。Eバイクで花巻や盛岡の空の下を走りながら、詩に登場する「銀河」や「風」や「雨」を思い浮かべてみると、旅そのものが一編の詩のように感じられてくるはずです。読書とサイクリングが静かに重なり合う時間は、パーソナルモビリティだからこそ味わえる、贅沢な「読む旅」の形式と言えるでしょう。
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宮沢賢治の故郷、広大な地下水脈を持つ岩手県には、清らかな水が豊富にあります。|出典:PAPERSKY

花巻市で宮沢賢治を感じるEバイク半日ツーリング

賢治の聖地巡礼は、やはり故郷の花巻から始めたいところです。新幹線の停車駅である新花巻駅周辺には観光協会が運営するレンタサイクルがあり、モビリティ自転車として借りられる電動アシスト付きモデルも用意されています。ここでEバイクを確保しておけば、丘の上にある記念館や童話村を含めた半日ツーリングが、ぐっと身近なプランになります。

最初の目的地は、胡四王山の中腹に建つ記念館です。館内には、詩の草稿や童話の原稿、農業指導の資料、チェロなどの愛用品が展示され、「詩人」「教師」「農業技術者」という多面的な賢治像を一度に体感できます。周囲の森を抜ける道は適度な上り坂ですが、電動モビリティなら無理なく登り切ることができ、汗をかきすぎる心配もありません。

記念館から坂を下ると「宮沢賢治童話村」があります。園内は歩行者専用ですが、その周辺にはEバイクでゆっくり走りたい穏やかな道が続きます。『銀河鉄道の夜』をモチーフにした展示や、童話に登場する不思議な光のインスタレーションを見学したあと、再びモビリティ自転車にまたがって花巻の市街地へ向かうと、「作品世界」と「現在の町の暮らし」が柔らかく重なり合っていきます。途中で小さな商店やカフェに立ち寄れば、聖地巡礼が地域とのささやかな交流にもつながるでしょう。

宮沢賢治聖地巡礼:イーハトーブの田園風景を走る花巻郊外Eバイクロングライド

花巻の中心部を一通り巡ったら、次は郊外の田園地帯まで足を伸ばすロングライドに出てみましょう。花巻西部には、田んぼと里山が広がる、まさにイーハトーブの原風景とも言えるエリアがあります。季節によって、緑の苗、黄金色の稲穂、雪景色と、まったく違う表情を見せるこの土地は、詩集『春と修羅』の一節がそのまま切り取られたような場所です。

このエリアでぜひ訪れたいのが、羅須地人協会のゆかりの地です。宮沢賢治は、農学校教師を辞めたあと、自宅を開放して「羅須地人協会」と名づけた勉強会を開き、農民たちとともに農業や思想について語り合いました。現在、その建物は移築されて公開されており、周囲には今も静かな田園風景が広がっています。ここでは、農民と共に生きようとした賢治の姿勢に思いをはせながら、イーハトーブの風を肌で感じることができます。

花巻郊外の道は、大型車の交通量が少ない区間も多く、パーソナルモビリティでのんびり走るのに向いています。ただし、コンビニや飲食店は市街地に比べて少ないため、水分と軽食の携行は必須です。帰りはわずかに下り基調になるルートを選ぶと、ロングライドの終盤でも身体に余裕を残しながら、心地よい疲労感とともに町へ戻ってくることができます。
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「羅須地人協会」の黒板に書かれた「下ノ畑ニ居リマス賢治」の文字。|出典:nippon.com

盛岡シティライドで出会う宮沢賢治と近代文学

花巻から盛岡へは鉄道で移動し、盛岡では再びモビリティ自転車に乗り換えるのがおすすめです。市内中心部には観光施設が運営するレンタサイクルがあり、街なかの移動に便利なシティサイクルを借りることができます。坂道の少ないエリアを選べば、Eバイクでなくとも快適に走れますが、長時間の周遊や夏場の旅であれば電動モビリティが心強い相棒になるでしょう。

盛岡は、宮沢賢治が高等農林学校時代を過ごした街です。北上川沿いや盛岡城跡公園周辺を走っていると、学生として学問に打ち込んでいた彼の姿が想像されます。また、石川啄木など他の近代文学者のゆかりの地も多く、一つの街の中でさまざまな文学的時間を行き来できるのが盛岡シティライドの魅力です。

サイクルルートとしては、駅前から盛岡城跡公園、北上川沿いの遊歩道、文学ゆかりの建物をめぐる一周コースが分かりやすいでしょう。ところどころで自転車を降り、カフェや老舗菓子店に立ち寄れば、「読む」「走る」「味わう」という三つの楽しみが自然に融合していきます。都市ならではのコンパクトさと、東北の空気感が同居する盛岡は、イーハトーブの別の顔を見せてくれる場所です。
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岩手県は宮沢賢治の想像上の風景「イーハトーブ」のベースとなった。|出典:nippon.com

イーハトーブの牧場・雫石と小岩井農場をEバイクで楽しむ

盛岡から西へ向かうと、雫石町と小岩井農場のエリアに入ります。ここは、雄大な岩手山を背景に広がる牧草地と農場風景が印象的な地域で、宮沢賢治の作品に登場する「牧場」「草原」「乳製品」といったモチーフを、現実の景色と味覚として体験できる場所です。

小岩井農場では、広い敷地のなかを歩いて回ることもできますが、周辺を含めたエリアを楽しむならモビリティ自転車との相性が抜群です。ゆるやかなアップダウンが続く道路を走っていると、岩手山の姿が常に視界のどこかにあり、「山と牧場に抱かれている」という感覚が次第に強まっていきます。観光案内所や宿泊施設によってはレンタサイクルを用意しているところもあり、電動アシスト付きのモデルがあれば、より広いエリアを無理なく巡ることができるでしょう。

雫石町内には、温泉や道の駅が点在しています。走行の途中で立ち寄り、ソフトクリームやヨーグルトといった乳製品を味わえば、口の中に広がる豊かなミルクの風味が、イーハトーブの牧場風景と直結していきます。パーソナルモビリティで風を切った後の冷たいスイーツは、まさに旅のご褒美です。
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宮沢賢治の石碑は賢治の行きつけの小岩農場に設置されている。|出典:PAPERSKY

宮沢賢治ゆかりの温泉とグルメでイーハトーブEバイク旅を仕上げる

宮沢賢治の聖地巡礼をより深い思い出にするためには、温泉とグルメの時間を丁寧にとることも欠かせません。花巻・盛岡・雫石それぞれに個性豊かな温泉地と地元料理があり、Eバイクでほどよく身体を使ったあとに浸かる湯、味わう一皿が、旅の印象をやわらかくまとめてくれます。

花巻では、花巻温泉や台温泉、大沢温泉など、歴史ある温泉が集まる花巻温泉郷が有名です。渓流沿いの露天風呂や、昔ながらの湯治宿は、賢治が生きた時代の空気を薄く残したような静けさをまとっています。なかには、庭園や花壇に賢治が関わったとされる場所もあり、湯上がりに散歩をするだけでも、イーハトーブ的な時間感覚に浸ることができます。

盛岡では、盛岡冷麺やじゃじゃ麺、わんこそばといった「盛岡三大麺」が旅人の胃袋を満たしてくれます。走行後の身体には、炭水化物と塩分がうれしく染みわたり、パーソナルモビリティで消費したエネルギーをおいしくチャージする感覚が味わえます。雫石・小岩井エリアでは、雫石牛を使った肉料理や、牧場直送の乳製品を楽しめるスポットが豊富です。イーハトーブの旅を締めくくる一杯・一皿を、ぜひ自分なりに見つけてみてください。
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盛岡冷麺は、盛岡の麺職人・青木輝人氏が昭和29年に「食道園」を開店した際に、朝鮮半島に伝わる咸興冷麺と平壌冷麺を融合させ、創作したのが始まりです。|出典:ぴょんぴょん舎

Eバイク・パーソナルモビリティで巡るイーハトーブ旅の準備と注意点

東北の自然のなかを走る旅には、都市部のサイクリングとは違う準備と心構えが必要です。とくに宮沢賢治ゆかりの地は、標高差や気候の変化が大きいエリアを含んでいるため、パーソナルモビリティを安全に活用するための基本を押さえておきましょう。

まず、シーズン選びが重要です。積雪や路面凍結のリスクを考えると、Eバイク旅に適した時期はおおむね4月中旬から11月上旬までと考えられます。春や秋は気温が穏やかですが、山あいでは天候が変わりやすいため、レインウェアと軽い防寒着は必携です。夏場は日差しが強く、こまめな水分補給と休憩が不可欠になります。

次に、モビリティ自転車そのもののチェックです。レンタルを利用する場合は、ブレーキやライト、タイヤの状態をスタッフと一緒に確認し、ヘルメットのフィット感も調整しておきましょう。自前の電動モビリティを持ち込むなら、バッテリー残量と予備充電の手段を事前に検討し、「行きは上り基調」「帰りは下り基調」といったルート設計を意識すると安心です。

安全のために意識したいポイント

  • ヘルメット・グローブ・前後ライト・反射材を基本装備とする
  • 1日の走行距離は、体力に合わせて20〜50km程度を目安に設定する
  • 郊外ではコンビニが少ないため、水と軽食を余裕を持って携行する
  • 野生動物出没情報や通行止め情報を、観光案内所で事前に確認する
こうした準備を整えておくことで、イーハトーブの風景に集中できる余白が生まれます。安全が確保されていると、宮沢賢治の作品世界に心を遊ばせる余裕も自然と増えていきます。
宮沢賢治の聖地巡礼には、何泊くらい必要ですか?
花巻だけを中心にEバイクで巡るなら、1泊2日でも主要スポットを押さえられます。初日は新花巻駅でモビリティ自転車を借りて宮沢賢治記念館と童話村を訪れ、翌日に花巻温泉郷や郊外の田園エリアを走るイメージです。花巻に加えて盛岡や雫石までEバイクで足を伸ばしたい場合は、2泊3日以上あると余裕を持った聖地巡礼が可能になります。イーハトーブの空気をじっくり味わうためには、「1日1エリア」のペース配分を意識するとよいでしょう。
『春と修羅』を読んでいないと、Eバイク旅の楽しさが半減しますか?
読んでいなくても、宮沢賢治記念館や童話村は十分に楽しめますし、Eバイクで走ること自体が大きな喜びになります。ただ、『春と修羅』のいくつかの詩をあらかじめ読んでおくと、花巻や盛岡で見上げる空や雲の形に、言葉の余韻が重なって感じられるはずです。旅の前後に数編だけでも目を通しておくと、イーハトーブの風景に「詩のレイヤー」が一枚加わるような感覚を味わえるでしょう。
体力に自信がありませんが、それでもEバイクで大丈夫でしょうか?
花巻市街地〜宮沢賢治記念館〜童話村のコースや、盛岡のシティライドは、Eバイクなら自転車に不慣れな人でも楽しみやすいルートです。1日あたりの走行距離を20〜30km程度に抑え、坂道が多いエリアではアシストモードを高めに設定すれば、無理なく完走できるはずです。こまめに休憩を取り、温泉やカフェを中継地点にしながら、「がんばりすぎない聖地巡礼」を心がけてみてください。
冬にイーハトーブを訪れる場合、Eバイクは使えますか?
冬季は積雪と路面凍結の影響で、レンタサイクルやシェアサイクルの多くが休止となり、Eバイクでの走行も危険が伴います。そのため、冬のイーハトーブ旅では、鉄道やバス、タクシーを中心に移動し、宮沢賢治記念館や温泉地を巡るプランが現実的です。雪に包まれた花巻や雫石の風景は、静かな「冬のイーハトーブ」として、夏のEバイク旅とはまた違う印象を残してくれるでしょう。

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